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オレがいちばん怖かったのは、生徒じゃなくなって、トクベツでもなくなった自分がいつかあなたに見放されてしまうこと。

あなたが離れていくなんて耐えられない。

ならばいっそ自分から、みっともなく縋ってその時を待つよりも、去り際を悟って姿を晦ませたほうがマシだと考えた。

いつかがいつか、来る前に･･･

それが子どもだったオレの、精いっぱいの大人っぽさだったから。

二人で過ごす未来を犠牲にして、あなたに手放される恐怖から逃げたのはオレのほう。

さすがの先生も愛想尽かしちゃったよね？

振り回すだけ振り回して、そこに在るはずの恋の不確かさが怖くなって勝手に逃げ出しちゃうなんて。

「･･･恋、してたのはオレだけなのかな。」

もしかしたら先生はもう、トクベツ扱いした生徒がいたことさえキレイさっぱり忘れて生活してるかも。

他の生徒と同じように年度で括られたその他大勢のひとりとしてオレのこと･･･

「ふふっ。やっぱり、言えばよかった？」

大好きです。ずっと一緒に居たいですって。

薄っぺらくても幼稚でも、あなたがどんなに眉を下げて困っても。

オレから伝えて、うんとうーんと悩ませて。

「こんなに好きなんだもん･･･先生･･･」

甘酸っぱい思い出なんて要らないから、伝えて全部、壊しちゃえばよかったんだ。

過ごした 月日 は、未だ 青春 に囚われる。

あなたが青春を終わらせてくれないから、オレはどこにも進めないまま大人にも子供にもなりきれない。

うじうじ考えてバカみたいでしょ？

こんな自分はキライなのに･･･

あの日以降雨が降ったら放課後に、「送って行こうか？」とくれるようになった連絡を、気づいたら今も携帯片手に待ち続けてる。

「ふふっ、クセってなかなか直んないな。」

電話番号を変えたのはオレの方なのに。

こんなどうしようもない自分を、可愛いって言ってくれる人はもう居ない。

決断するのはいつもオレで、欲しがるのも嬉しいのも悲しいのも愛おしいのも全部全部オレだけだった。

『先生、帰っちゃうの？･･･しない、の？』

『･･･バカ、今日は送るだけって言ったろ？

それに俺、職員室のクーラー壊れてたせいで今めちゃくちゃ汗臭いし･･･』

求められて、オレのワガママに付き合ってくれる先生は、眉間のシワをどんどん深くしていったけど。

立場のせいでひた隠しにされたあなたの執着心が表に出るのは、体のどこかをつなげている時だけだったから、

『やだ、くさくなんかないもん。

いっしょにお風呂入ったら平気だよ。どうせまた汗かくんだし･･･ね？』

オレが一生懸命になるのは当然でしょう？

『お前なぁ、大人をからかうなって･･･』

ほらまた、オレを窘めたりするくせに、そんな目をして抱きしめてくれる。

ずるい人。本当にずるくて、そんなところも大好きだった。

『くふふ。先生の匂い、オレに移して？』

堪らなくなるからやめてくれって、オレをこんなふうに躾けたのはあなたなのに。

「･･･わっ、晴れてきてない？」

いつの間にかやんでいた通り雨。

雨上がりのとろりとした夕陽が無機質な窓から流れこみ、茜色に染まった世界にびっくりして息を飲む。

「そうだ、雨やんでるうちに帰らなきゃ。」

いつまでもこんなところには居られない。

オレンジが溶け出した廊下の端を、来客用スリッパを滑らせてノロノロ進む。

だってもし、今日みたいな雨の日に、

「傘、持ってないなら送って行こうか？」

あなたに見つかってしまったらオレは･･･

つづく